2026年に圏論を学ぶ理由:『ヒトとAI』を読んで

はじめに

こんにちは。SREの神谷です。

この記事は「2026年の抱負:圏論をSREに活用する」シリーズの #4 です。

「2026年の抱負:圏論をSREに活用する」シリーズの記事一覧

このシリーズのきっかけ

「2026年の抱負:圏論をSREに活用する」シリーズのきっかけは、書籍『はじめての圏論 ブンゲン先生の現代数学入門』と出会い、世界中の人々が圏論の基本的な言葉を使えるようになってほしいと思ったことでした。

「圏論がこのように活用できる」という実例を見せることで、このブログが皆様にとって圏論を学ぶきっかけになることを目指したのです。

この記事のテーマ(2026年に圏論を学ぶ理由)

今回は、原点に立ち返り、圏論を学ぶきっかけになりそうなことを共有します。

最近、書籍『ヒトとAI』を読み、AIの時代にこそ圏論は重要になりそうだ、と思うようになりました。この記事では、AIにより社会が大きく変化する中で、2026年に圏論を学ぶ理由をあらためて考えてみます。

『ヒトとAI』を読んで

『ヒトとAI』を読み、個人的に印象に残ったところをまとめます。

2026年、AIにより社会が大きく変化しています。例えば、私の業務の範囲でも、コーディングの大部分はAIによるものとなりました。

『ヒトとAI』の「おわりに」から引用します。

火は「使うか使わないか」を選べる道具ではなく、生活の前提になった。火をどう扱うかは選べても、火のない生活に戻ることはできなかった。

AIもまた、同じ種類の道具である。

では、AIをどう使うべきでしょうか?『ヒトとAI』に論点が整理されています。

『ヒトとAI』の「はじめに」から引用します。

答えを与える本ではなく、考えるための前提条件や論点を整理し、読者が自ら思考するための見取り図を提示することを目指していく。

この記事では3つの論点を考えてみます。

①暗黙から明示へ

『ヒトとAI』の「第16章 仕事の再設計」から引用します。

AIが仕事に組み込まれる場合、これまで文化や慣習のなかに埋め込まれていた判断や責任の分配を、業務の構造として明示的に設計し直す必要がある。

職場の空気や経験則に依存してきた判断構造を明示し、設計対象として扱う必要があります。

graph LR
  暗黙 --> 明示

②実装から定義へ

『ヒトとAI』の「第20章 言語の再発明」から引用します。

また数学などでも自然言語と数式で記述されていたさまざまな定理や理論を、行間を排して厳密に証明できるよう作られた形式言語が使われ始めている。

先ほど述べたように、実装(コーディング)の多くはAIに任せられるようになりました。人間の役割は、実装することから、何を実現したいのかを定義することに移行しています。

またLeanは数学の証明を形式化する言語のひとつです。AIの進歩により証明の自動化が進む中で、証明したいことを書き下すことの重要性が増しているように思います。

graph LR
  実装 --> 定義

③行動から支援へ

『ヒトとAI』の「第24章 エージェント社会とRTS」から引用します。

個々の行動を制御することが難しくなる一方で、どのような行動が生じうるかを定める構造への関与が増え、人間は、行動を直接選ぶ主体から、環境を整える存在へと位置を移す。

多数のAIエージェントが同時に行動する社会では、個々の行動を細かく制御することが難しくなります。望ましい結果を得るために、人間は、AIエージェントが行動する環境の整備、つまりAIエージェントの支援に注力することになります。

graph LR
  行動 --> 支援

SREとの関連

3つの論点を挙げました。

  • ①暗黙から明示へ
  • ②実装から定義へ
  • ③行動から支援へ

これらは、実はSREがやってきたことでもあります。

書籍『SREをはじめよう』の「1.1 SREとは何か」から引用します。

サイトリライアビリティエンジニアリングは、組織がシステム、サービス、製品において適切なレベルの信頼性を持続的に達成できるよう支援することを目的とした工学分野である。

①暗黙から明示へ

SREを推進するにあたって、まずは適切なレベルの信頼性がどれくらいかを明示的にする必要があります。SLOの策定は「暗黙から明示へ」に相当します。

②実装から定義へ

例えば手続き型から宣言型への移行がこれに相当すると思います。インフラを構成するためのシェルスクリプトの実装(手続き型)からTerraform(宣言型)への移行です。

③行動から支援へ

SREの目的は自らが適切なレベルの信頼性を達成することではありません。組織がそれを持続的に達成できるよう支援することです。今後、その支援対象には、開発チームだけでなく、AIエージェント群も含まれるようになるかもしれません。

2026年に圏論を学ぶ理由

3つの論点について、圏論が役立つでしょう。

なぜなら、これらは全て「理解と表現」として捉えることができ、圏論は現実世界の理解と表現に役立つと考えているからです。

①暗黙から明示へ

暗黙の了解を理解し、明示的に表現する必要があります。圏論は理解(構造の把握、関係性のレベルの切り替えなど)と表現(関係性のレベルの違いの表現)の双方で優れていると思います。

②実装から定義へ

圏論の言葉は、表現力・理解のしやすさ・検証可能性などのバランスが良いと思います。

望むことを圏論の言葉で明示的に表現(定義)すれば、それは(もし世界中の人々が圏論の基本的な言葉を使えるようになっていれば)人間にとって理解しやすく、またLeanなどの形式言語による検証もできるはずです。

③行動から支援へ

『ベーシック圏論』の「序文」から引用します。

圏論は鳥の目で数学を俯瞰する。

読者は、数学においてこれまで気づくことのなかったパターンを見出すだろう。

『はじめての圏論』の「はじめに」から引用します。

圏論は社会のさまざまな諸相を、より精密に理解するための有用なツールを提供します。それは現代を生きる我々が現実を見る目を強化し、世界を高度に構造化された姿で表現するのです。ですから, 世界中の人々が圏論の基本的な言葉を使えるようになれば, きっと我々の社会は大きく変わるだろうと思います。

AIエージェントが行動する環境を整備するためには、新しい観点から俯瞰的に仕事を理解する必要があります。圏論は、その視点を与えてくれると思います。個々の仕事だけでなく、それらの関係や構造を俯瞰することが求められるという意味で、圏論の視点が役立つでしょう。

まとめ

2026年、AIの台頭により、

  • 俯瞰的な観点からの理解力
  • 検証可能な形式での表現力

が求められます。圏論は、その力を与えてくれるはずです。

この記事が皆様にとって圏論を学ぶきっかけになれば幸いです。